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浅田真央選手とドガの絵

フィギュアスケートの魅力ってなんだろう、と考える時いつも思い出す一枚の絵があります。
それがこちら。

浅田真央選手とドガの絵_b0218806_1316217.jpgエドガー・ドガ 踊りの花形(エトワール、又は舞台の踊り子) 1878年





舞台上で観客の視線を一心に集めて踊るバレリーナ。
ライトの光を浴びて、胸元や首が官能的に白く浮かび上がっています。どことなく、彼女自身も恍惚とした表情をしているようにも見えますね。

その後ろには、出番を待っている脇役のバレリーナの足と、黒い燕尾服を着た男性の姿が見えます。
黒い服の男性は、パトロンです。
この時代のバレリーナというのは、いわゆるカタギのお嬢さんではないのです。
第一次世界大戦になるまで、ヨーロッパでは一般の女性がズボンをはくことすら、とんでもないことでした。
理由は脚の形が見えてしまうから。
かのジャンヌ・ダルクが火あぶりにされてしまった理由も、男装をして人々の心を惑わせた魔女だから、ということでした。

で、ドガがこの絵を描いた19世紀のパリにおいても、これだけ脚を丸出しにして人々の前で踊る職業、というのはやはり特殊だったんですね。
衣装代や日々の生活、彼女がダンサーでいるためにはお金が必要です。
そこで、パトロンという形で上流階級の男性が美しいダンサーを愛で、金銭的に援助をするという構図です。
今でいうスポンサーですね。厳しい世界です。

主役のバレリーナを見つめる脇役たちも、まるで「次は私が主役に・・。」って言ってるみたいですね。

この美しさと残酷さ、両面を持っているのがバレエであり、フィギュアスケートであり、すべての「舞台」というものが用意されている芸術・スポーツに通じるものではないでしょうか。

浅田真央選手とドガの絵_b0218806_13373637.jpg浅田真央選手のSP版・仮面舞踏会の世界観はこれに通じるものがあると思います。

初めての舞踏会に心躍らせる少女が、後半のステップ部分で舞踏会の熱気に酔ってしまい、のぞいてはいけない危ない世界へ足を踏み入れていくような。
美しさと狂気の両面がありました。
つくづく、振付師であり名コーチのタラソワ先生はいい意味で「変態」ですね。

この絵の構図なのですが、ちょっと上から舞台を見下ろすように描いています。
でも、上部にある観客席から普通に舞台を見下ろしたのなら、パトロンたちがお客さんにここまで見えるのは不自然ですよね。
ちょっと見てはいけない舞台の裏側が不意にのぞいてしまった・・。
そんな印象を受けるよう、ドガはちゃんと登場人物や舞台装置、光が差し込む位置を調整して描いています。

浅田真央選手とドガの絵_b0218806_1351513.jpg練習しているバレリーナの姿、というのが今シーズンの真央選手のExのテーマでしたね。
練習中という普段見せない、いや見せてはいけない演者の姿を観客は「覗いている」わけです。
そこにはある種の官能が存在するんですね。

私がとても良い、と思うのは真央選手自身がとても健康的でそういった解釈にいい意味で「気付かない」ことです。
演者自身が自意識過剰になってしまうと、とたんに品が無くなります。

最近のシングルのプログラムって、スケートそのものをよりよく見せるプロは沢山あって楽しいのですが。
一方で、こういったあーだこーだ言う、余白を残してくれているプロは少なくなっている気がします。
そういう意味で、タラソワ先生にはまだまだ頑張っていただきたいです。

今シーズンの真央選手のExを見る時、ぼんやりと「ああ、真央ちゃんって毎日こうやって練習してるんだな・・。」と思います。
毎日毎日、一日何時間も幼い時からずーっと。
そのすべてを舞台で出せるのは、たったの数分間。
彼女が今まで費やしてきた、すべての時間と同じくらいの長い間、演技を見つめ続けてくれる観客は恐らく殆どいないけれど。

ドガの絵に描かれているものと同じ、輝きは一瞬。
だからこそ美しいし、観客はそこに立ち会おうと躍起になるんですね。
真央選手が悔いのない演技ができることを、心から祈っています。
by okope_doyle | 2011-04-26 14:13 | フィギュアスケート


スコ猫・ドイル(おこぺ)の写真を中心に。美術とかフィギュアスケートとか日々のこととか色々と。


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